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鮮時代に儺礼の演行に参与した人たちは倡優・妓女・楽工たちで、この中の大多数は平素は地方をまわりながら、民間を相手に公演しつつ、生計を維持した。特に、仁祖(一六二三〜一六四九年)以後、儺礼が公式的な年例行事として廃止されると、その従事者たちが民間をまわりながら公演する過程で仮面識を形成したのであろうという主張が提起されたこともある。それゆえ、仮面銭の形成において儺礼の登場人物の性格と駆儺形式が反映されたのは当然のことである。
まず、鳳山仮面戯の入墨僧寺をみてみよう。鳳山仮面戯の入墨僧はその仮面が鬼面であって他の仮面とは大きな違いを見せる。そして八名の墨僧たちが一名ずつ順に登場し退場する劇的形式において儺礼の駆儺形式と対応する姿を観察することができる。入墨僧科場で、二番目の墨僧からは遊び場に登場するや、自分より先に出てきた墨僧の顔を桃の枝や柳の枝で打ち、追い払う動作をする。すると、先にでていた墨僧が追い払われ遊び場から退場する。
中国と韓国の儺礼ではいずれも桃の枝で疫鬼を追い払った。という点を思い出してみよう。入墨僧の仮面が鬼面であり、それを打ち、追い払う桃の枝や柳の枝が辟邪的な意味をもっているのなら、後からでてくる墨僧が先にでてきた墨僧を打ち追い払う形式で反復されるこの動作は、鬼神を追う動作として解釈するとができよう。このような劇的な形式は、儺礼の駆儺形式の影響のもとで形成されたものである。
この他に、仮面戯の五方神将舞は高麗末、李穡<駆儺行>の後半部に見られる五万鬼舞および成俔の『楽学軌範』において、朝鮮時代の儺礼で演じられたものとして紹介した五方處容舞に対応する。仮面戯の獅子舞は<駆儺行>の獅子舞など、儺礼の獅子舞と対応する。仮面戯の南極老人はやはり李穡の<駆儺行>の後半部にでてくる南極星老人と対応する。仮面戯の小巫・小梅閣氏は儺礼の小味・小梅に由来した人物である。仮面戯の老僧科場は儺の僧広大と対応する。仮面戯の酔発・老僧の性格と二人の間の劇的形式は儺礼の處容・疫神の性格と駆度形式に対応する。また、仮面戯に登場するマルトゥギ(下人)・両班の性格と両者間でひろげられる劇的形式は儺礼の大面・鬼神の性格と駆儺の形式と対応する。
江陵官奴仮面戯の両班広大・小梅閣氏・シシタククッキ(疫神)の三角関係は處容説話の處容・處容の妻・疫神の関係に対応する。
<高麗大学教授>

 

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東菜莢野遊の両班科場

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鳳山仮面戯の老僧科場

 

 

 

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